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会社と社員の関係性とは? お互いが幸せになる在り方を考える
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ここ数年、企業の採用担当者が新卒学生に将来のキャリアプランを尋ねると「この会社を辞めたら、次にどのような会社で働きたいか」と答えることは少なくないそうです。以前は、入社を希望する会社にこのようなことを言うのは失礼だという風潮がありましたが、働く人にとって会社の意味合いが変わってきているのでしょう。
人は何のために働くのでしょうか。そして、会社は社員とどのような関係を築くべきなのでしょうか。会社と社員の関係性について、歴史を紐解きながら考えます。
かつて、会社と社員は「運命共同体」だった

前回の記事でお伝えしたように、日本における会社と社員の関係性は、会社が社員の雇用を保証する代わりに、社員は会社の指示に従う「主従関係」でした。社員は会社の運命共同体として職種が変わる異動も受け入れ、世界中どこへでも転勤します。これは雇用契約書に書かれているわけでもなく、法律で義務付けられているわけでもありません。暗黙の約束として根付いている「心理的契約」なのです。
アメリカの経営学者であったジェームス・アベグレン氏は、日本的経営の「三種の神器」に、終身雇用・年功序列・企業内労働組合を挙げました。終身雇用と年功序列によって社員の忠誠心を高め、企業内労働組合(※1)には労使の話し合いがスムーズにできるメリットがあったのです。社員どうしは何十年も一緒に働き続け、気心が知れている家族的な安心感がありました。
世界的に見ると独特である日本的経営の土台には、近代日本資本主義の父といわれる渋沢栄一氏が大切にした「論語」の価値観があります。渋沢氏は、現在の3大メガバンクやJR東日本、NHKや東京ガスなど名だたる企業の設立に関わり、今も多くの人に読まれている本である「論語と算盤」の著者でもあります。終身雇用・年功序列の会社が成長し続ける土台には、年長者は年下を育て、年下は目上の人を敬う「仁」の考え方があったのです。渋沢氏も著書の中で「人はただ一人では何もできない存在だ」との言葉を残しています。
利益を独り占めするのではなく、上司は部下を一人前に育てる義務を遂行する。部下は上司を敬い、その指示に従う。こうした論語の教えに基づく秩序と、明治以降の集団教育で培われた和を重んじる文化、そして日本的経営の”三種の神器”が融合することで、戦後の日本は経済成長してきました。
「失われた30年」が、会社と社員の関係性を変えた

第二次世界大戦後、会社と社員の家族的な関係によって、戦後復興や高度経済成長を実現してきた日本。
ところが、バブル崩壊以降「失われた30年」の間に、その関係性はじわじわと変わりました。多くの会社は年功序列で給与を上げていく報酬制度を維持するのが難しくなり、早期退職制度を発令する会社が出てきたのです。山一證券など、絶対につぶれないと言われていた大手金融でさえ経営破綻してしまうこともありました。欧米に倣って成果主義を入れた会社もありましたが、日本的経営の「三種の神器」が根付いている日本企業には馴染まず、定着には至りません。会社と社員の関係性は、混迷の時代に入りました。
21世紀に入ると、減り続ける労働力人口を補うために女性活用が盛んになりました。会社も優秀な人材を確保するために、産前産後休業制度や福利厚生を充実させ、働きやすい会社になるよう改革する動きが出てきます。2007年には国が「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を制定し、国全体で働きやすさを重視するようになりました。
ただし、制度や福利厚生を整えただけで業績が上がるわけではありません。社員に前向きに働いてもらい、会社を成長させるにはどうしたらいいのか、今もなお多くの会社が悩んでいます。
避けて通れないダイバーシティ
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会社と社員の関係性を考えるにあたって、さらに考えるべきテーマがあります。それは「ダイバーシティ(多様性)」です。これまで同質性の高いメンバーで構成してきた日本企業にとっては、真逆の課題が与えられているのです。ここでは、年齢や人種、性別といったダイバーシティに加え、働き方や仕事経験での多様性も含めて考えていきます。
ダイバーシティは、なぜ必要なのでしょうか? ジェンダーの平等を求める社会の潮流や、株主からの要求に応えるためだけではありません。会社が長期的に成長するためには、ダイバーシティへの対応は必要不可欠なのです。
まず、労働力人口が減っている中、会社が労働力を確保するためには多様な働き方を認める必要があることは確かです。正社員以外の雇用形態で働く人も、大切な戦力になっています。
もうひとつの理由は、激しく変わる世界情勢に対応するために、既存事業の改善はもちろん、新規事業を生み出す必要があることです。同質性の高い組織は既存事業の改善は得意ですが、新たな事業アイデアを創ることは難しく、他業界経験者や幅広い年齢層のメンバーといった多様なバックグラウンドを持った人を組織の一員として迎え入れる必要があるのです。
また、コーポレートガバナンス(健全な企業経営体制)の観点でも、ダイバーシティへの対応は必須です。2021年に改訂された東証のコーポレートガバナンス・コードにもダイバーシティの内容が盛り込まれており(※2)、今後、ダイバーシティへの対応が遅れている会社は投資を受けにくくなると予想されます。
これからの時代、会社と社員を繋ぐのは「エンゲージメント」

「三種の神器」が崩れた会社は終身雇用の代わりに、社員に何を提供すればいいのでしょうか。会社と社員を新たに結びつけるものは何でしょうか。これからの会社と社員の関係性について考えます。
働きやすさが改善された今、社員はワーク・ライフ・バランスが取れるだけでは満足できず、会社に「働きがいがあり、自己実現ができる場所」であることを求めるようになっています。「働きがい」とは、会社と個人が互いに信頼できていて、仕事を前向きに取り組めるといった内面的なメリットがある状態を言います。近年のビジネスパーソンは、報酬や昇進、福利厚生といった目に見えるものだけでなく、仕事を通した心理的な幸せも重視するようになっているのです。

「働きやすさ」と「働きがい」は、別のものです。臨床心理学者のF・ハーズバーグ氏による「動機づけ・衛生理論(※3)」によると、労働環境や作業条件(働く時間や給与など)といった衛生要因が満たされても、仕事の達成感や自己成長などの動機づけ要因が満たされるわけではないとされています。人が仕事で不満になる要因と、満足する要因は異なるのです。
会社は、多様なバックグラウンドを持ち、多様な働き方をする人たちに対して、「働きがい」を持たせながら求心力を高める必要があります。これからの会社と社員を結ぶものは「エンゲージメント」です。
エンゲージメントとは、コンサルティング会社のウィリス・タワーズワトソン社の定義によると「企業が目指す姿や方向性を従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識」とされています(※4)。会社と社員がお互いに理解・信頼していてこそ、社員は前向きに仕事をし、結果として達成感や自己成長というメリットが得られるのです。会社にとっては、自発的に働く社員が増え、業績向上が期待できます。
これからの時代は、会社へ社員が忠誠を誓うのではなく、会社と社員は目指す方向性を共にし、対等な関係性を築いていくのです。では、会社はどのように社員のエンゲージメントを高めていけばよいのでしょうか。次回のコラムで考えていきたいと思います。
※1 労働組合は、厚生労働省によると「労働者が団結して、賃金や労働時間などの労働条件の改善を図るためにつくる団体のこと」と定義しており、企業単位の労働組合を「企業内労働組合」と言います。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/roudoukumiai/index.html
※2 東京証券取引所が2021年6月11日に発表したマーケットニュース「改訂コーポレートガバナンス・コードの公表」では、「企業の中核人材における多様性の確保」が加わりました。
https://www.jpx.co.jp/news/1020/20210611-01.html
※3 参考:グロービス MBA組織と人材マネジメント(グロービス経営大学院 著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4478003211
※4 出典:エンゲージメントと従業員体験(エンプロイー・エクスペリエンス)から考える人事制度構築
https://www.wtwco.com/ja-JP/Insights/2021/07/hcb-nl-july-uetake